医療裁判紹介バックナンバー
医療裁判:入院患者の転倒に対する予見可能性と結果回避義務違反
2014年11月01日
末期の肺癌に罹患していた患者(男性,事故当時85歳)は,自宅で尻餅をつき,第1腰椎を圧迫骨折したため,病院に入院した。その後,リハビリ目 的で転院した別の病院で,患者は,看護師に付き添われ,歩行器を使用してトイレから病室に歩いて戻る途中,看護師が所用で患者の傍を離れた5〜10秒程度の間に転倒し,頭部を床に打ち付け,外傷性脳内出血および硬膜下血腫を発症した。なお,その後,患者は,本件とは無関係の疾患で死亡した…(福岡地方裁判所小倉支部平成24年10月18日判決)
医療裁判:患者の家族に対する癌の告知義務
2014年10月02日
患者(男性,死亡当時75歳)が進行性の前立腺癌に罹患していたため,医師が癌の告知をした上で,適切な治療法等を説明したが,患者がこれを拒否し,その後死亡した。本件は,患者の相続人である家族が,医師に対し,(1)患者に対し前立腺癌の告知をしなかった,または不十分な説明であった過失,(2)患者に適切な説明 がされていたとしても患者の家族に対する告知義務を怠った過失がある等と主張して,損害賠償を求めた事案である…(名古屋地方裁判所平成19年6月14日判決)
医療裁判:複数の医師が関与するチーム医療における「信頼の原則」
2014年10月01日
患者(女性,当時50歳)が病院で胃癌(低分化腺癌・グループV)との診断を受け,胃の亜全摘手術を受けたが,術後に胃癌ではなかったことが判明した。本件は,患者が,病院に対し,病理の担当医師には病理診断を誤った過失,臨床の担当医師らには,術前の検査結果をふまえて,病理の担当医師らと意見交換を行うなど症例の再検討を怠った過失があると主張して,損害賠償を求めた事案である…(東京地方裁判所平成23年5月19日判決)
医療裁判:麻酔薬の使用量決定および術中管理等に過失が認められた一例
2014年09月02日
標準的な体形に比べ比較的小柄な高齢者である患者(本件当時82歳女性,身長146cm,体重42.5kg)が脊椎麻酔の後,大腿骨頸部骨折の接合手術を受けたが,手術終了直後に急性循環不全に陥り死亡した。本件は,患者遺族が病院の運営主体である医療法人に対し,担当医の麻酔管理等に過失があったとして損害賠償を請求した事例である…(福岡高等裁判所平成19年5月29日判決)
医療裁判:未破裂脳動脈瘤に対し手術を受けるか選択する自己決定権
2014年09月01日
アメリカ合衆国内の病院で未破裂脳動脈瘤が見つかった患者(女性,手術当時53歳)が,開頭手術を提案されるも,日本でセカンドオピニオンを受け るため帰国し,大学病院を受診した。患者は,術前に担当医師から,手術内容と手術の危険性について説明を受け,承諾書に署名押印の後,未破裂脳動 脈瘤に対してコイル塞栓術を受けた。しかし,手術直後に脳内出血が生じ緊急開頭手術が実施され,患者には左上下肢機能障害の後遺症が残存した…(仙台地方裁判所平成25年1月17日判決)
医療裁判:麻酔導入後に手術室を離れた麻酔科医の刑事責任
2014年08月02日
患者(44歳,女性)の左乳房部分切除およびセンチネルリンパ節生検を行うにあたり,麻酔担当医が,患者に全身麻酔を施した後,別の手術室で麻酔 を担当中の後期研修医の指導・補助を行うため手術室を退室した。その退室時間が約27分間に及ぶ間に,患者と麻酔器を繋ぐ蛇管が外れて,約18分 間酸素の供給が遮断された結果,患者は低酸素脳症に基づく高次脳機能障害および四肢不全麻痺の傷害を負った…(横浜地方裁判所平成25年9月17日判決)
医療裁判:事前同意のない術式の採用につき医師の裁量権逸脱が認められた一例
2014年08月01日
血栓閉鎖型急性大動脈解離(スタンフォードB型)の診断を受けた患者(本件当時71歳男性)が,経過観察中に大動脈瘤の瘤径が拡大傾向となったため,人工血管置換術の手術適応を検討する目的で入院した。検査の結果,手術適応ありと判断されたため,患者は下行大動脈瘤等の治療目的で,全大動脈弓置換術およびプルスルー法による下行大動脈置換術を受けたが,その結果,対麻痺が生じた…(鹿児島地方裁判所平成25年6月18日判決)
医療裁判:気管切開の判断に遅延があったとされた一事例
2014年07月02日
患者(当時76歳,女性)が,顔面神経麻痺に対する星状神経節ブロックを受けた後,遅発性の頸部・縦隔血腫による気道狭窄が生じた。これに対し, 担当医師らが気道確保のために経鼻挿管,その後,3回にわたって経口挿管を試みたが,患者の体動・反射により奏効せず,最終的に気管切開を実施し た。気管切開は成功したものの,結果的に患者に低酸素脳症による重篤な後遺症が残った…(東京地方裁判所平成24年1月26日判決)
医療裁判:薬事法の製造販売承認を得ていない医療機器の使用
2014年07月01日
患者(30歳代,男性)が,近視矯正目的のためクリニックを受診してレーシック手術を受けたところ,術前の左眼が裸眼視力0.1,矯正視力1.2であったものが,2度のレーシック手術を経て裸眼視力0.01,矯正視力0.1(眼鏡による矯正),0.3(ハードコンタクトレンズによる矯正) に低下したと訴えた。本件は,患者がクリニックを経営する医療法人とレーシック手術を施行した医師に対して,薬事法14条による製造販売の承認を得ていない医療機器は安全性が確認されておらず,そのような医療機器を使用したために視力が低下したなどと主張し…(東京地方裁判所平成20年1月30日判決)
医療裁判:重症肺炎を発症した患者に対するST合剤投与時期の是非
2014年06月02日
IgA腎症に対するステロイド療法を受ける目的で入院していた患者(女性・当時51歳)が,入院中に重症肺炎に罹患した。当初,担当医師は各種検査の結果から細菌性肺炎の可能性を最も疑い,ホスホマイシンナトリウム等の抗生剤を投与していた。その8日後,DNA検査でカリニ陽性であったことから,ST合剤の投与を開始したが,症状は改善せずに患者は死亡した…(東京地方裁判所平成20年3月27日判決)