MI後のβ遮断薬は「引退の淵」にさしかかっているのか:ABYSS試験
Beta-Blocker Interruption or Continuation after Myocardial Infarction
背景
心筋梗塞(MI)後のβ遮断薬の位置づけは?
フランスSorbonne UniversiteのSilvainら(ABYSS)は、MI後にβ遮断薬を処方されていて、左室駆出率が40%以上で過去6ヵ月間に心血管イベントの既往歴がない患者3,698名を対象に、長期β遮断薬治療の中断の安全性・有効性を検証するRCTを行った(対照:継続)。
一次エンドポイントは、最長追跡期間(最短1年)での死亡・非致死性MI・非致死性脳卒中・心血管疾患入院の複合である(非劣性解析)。
結論
中央値3年間の追跡調査で、中断の継続に対する非劣性は示されなかった。
一次エンドポイントイベントは、中断群の23.8%、継続群の21.1%に発生し(リスク差、2.8パーセントポイント)、ハザード比1.16であった。死亡は中断群で4.1%、継続群で4.0%発生し、MIは各2.5%、2.4%で発生した。心血管疾患入院は中断群で18.9%、継続群で16.6%であった。β遮断薬の中断は、6ヵ月後および研究追跡期間中の収縮期血圧と拡張期血圧および心拍数の上昇と関連した。β遮断薬の中断は患者のQOLを改善しなかった。
評価
REDUCE-AMI(https://www.medicalonline.jp/review/detail?id=10774)の、β遮断薬中断は死亡・心筋梗塞にも、また治療開始から1年後の狭心症症状にも差がなかった、という結果を受けての、大規模RCTである。ABYSS試験では、死亡・MI・脳卒中・心不全再入院に関して明らかな群間差はみられず、これらの結果を裏付けている。他方、著者らは、ここでの結果は「MI後の患者に対する長期β遮断薬治療の中断を支持するものではない」としており、状況は微妙である。NEJMEditorialは、「ここでの結果は、MI後のβ遮断薬が<最終的な引退>にさしかかっているのか、どうかという問いに新たなデータを追加した」とコメントしている。