大気汚染物質はどのように肺がんを引き起こすのか
Lung adenocarcinoma promotion by air pollutants
背景
大気汚染(への曝露)は肺がんのリスク因子と目されているが、この関連の根底にあるメカニズムは十分明らかにされていない。従来、発がん性物質は直接DNA損傷を誘導することで腫瘍を引き起こすと考えられてきたが、近年のデータはこの説を疑問視している。
イギリスFrancis Crick InstituteのHillらによる研究は、2.5 μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)が、すでに存在するがん性変異細胞に与える影響を多角的に検討した。
結論
3ヵ国の地域PM2.5レベルとEGFR変異肺がんの発症率には一貫した関連が認められた。カナダの喫煙歴のない肺がん患者コホートでの調査からは、3年の高PM2.5曝露でEGFR変異肺がんの発症に十分な関連を認め、この関連はイギリスUK Biobankでも確認された。著者らは次に、肺がんマウスモデルにおいて、PM曝露が肺がん発生を促進するかを検討した。EGFR発現誘導の前後でのPM曝露は、EGFR変異細胞の数を増やし、増殖率を高めることで発がんを促進した。また、一過性のPM曝露がその後の肺マクロファージ浸潤を強化することも示唆された。さらにマクロファージから生じるPM誘発性炎症のメディエーターとして、インターロイキン-1β(IL-1β)が特定された。この腫瘍形成プロセスを正当化するように、肺がん歴のない健康な肺組織のサンプルから、EGFRドライバー変異が18%、KRAS変異が53%で発見された。
評価
がんの発生メカニズムについては、DNA損傷を引き起こすイニシエーターと、その作用を促進するプロモーターという二段階説があるが、この研究は、大気汚染物質への曝露が炎症反応を通じてがんをプロモートするというモデルを提起した。大気汚染問題についてのメッセージとなるだけでなく、肺がん以外のがんの発症プロセスについても光を投げかける知見である。


