近代以前のがん罹患率はこれまで考えられていたよりも高い?:イギリス
The prevalence of cancer in Britain before industrialization
背景
近代化以前の社会では外傷や感染症による死亡が多くを占め、産業化以降に現れたがんリスク因子も存在しなかったことから、がんを原因とする死亡の割合は現代よりもはるかに少なかったと考えられている。イギリスUniversity of CambridgeのMitchellらは、ケンブリッジ地域の墓地6ヵ所から発掘された6〜16世紀の成人被葬者143体において、単純X線・CT検査と目視による検査から悪性病変を同定し、中世イギリスにおけるがん死亡率を推定した。
結論
143名中5名で悪性腫瘍を示唆する病変が同定された(最小有病率3.5%)。臨床研究におけるCTの骨転移感度が75%程度であることを考えると、真の最小有病率は4.7%程度の可能性がある。また、がんで死亡する現代人の1/3から1/2が骨転移を有することから、中世イギリス成人の9〜14%が死亡時にがんを有していたことが示唆された。
評価
がんの多くは軟部組織に生じるため、遠い過去におけるがんの有病率は骨病変からの推定に頼る必要がある。6〜16世紀の品質の良い埋葬遺骨(古すぎる骨は崩壊・損傷が進むため適さない)から本研究がはじき出した9〜14%という有病率は、過去の古病理学的推定(1%未満)を大きく上回るもので、前近代の人々の健康についてのイメージを大きく変える知見となった。