脳内電極で、チルゼパチド服用中に再燃する「食物への執着」を同定
Brain activity associated with breakthrough food preoccupation in an individual on tirzepatide
背景
肥満治療においてチルゼパチド等のインクレチン関連薬は劇的な減量効果を示すが、食欲や「食べ物への執着(food noise)」を制御する脳内報酬系への影響は。
アメリカUniversity of PennsylvaniaのHalpernらは、難治性肥満患者の脳内(側坐核)に電極を留置し、チルゼパチド服用中の神経活動を直接記録し、薬物療法中に執着が再燃する「ブレイクスルー現象」の生理学的背景を検討した。
結論
チルゼパチドの増量により「食べ物への執着」が消失していた期間中、側坐核では異常活動は認められなかった。しかし、最大用量服用中にもかかわらず、執着が再燃した際、その7週間前から側坐核において7 Hz以下の低周波(デルタ・シータ波)の出力上昇が先行することが確認された。執着が頻発する時期のイベント発生率は月7回に達し、この低周波活動が執着の強さや頻度を反映するバイオマーカーである可能性が示された。
評価
このテーマに関する、単一患者での脳内電気活動の初めての報告である。動物レベルで盛んに行われている研究だが、動物では活動部位や活動程度は分るが、「食べてはいないが、頭の中は食物のノイズで埋め尽くされている状態(渇望: cravings)」はわからない。今回のヒト症例は、薬によって一度沈黙したはずの側坐核の低周波(デルタ・シータ波)が、なぜか薬物血中濃度が高いまま復活したという、動物モデルでは予測しきれなかった「人間の脳の執念」を同定したもの、とも言える。「リバウンド」や治療抵抗性の予見、さらには脳波に基づく治療最適化、また薬物療法と反応型深部脳刺激療法(rDBS)を組み合わせた高度な個別化医療への応用等、大きな展開を期待させる発端研究である。


