生涯乳がんリスクが35%以上ならリスク低減乳房切除術は費用効率的:イギリス
Defining Lifetime Risk Thresholds for Breast Cancer Surgical Prevention
背景
遺伝子検査へのアクセス拡大と、乳がんリスクモデルの確立によって、BRCA1・BRCA2・PALB2などの高浸透率(表現型の出現する確率が高い)バリアント保持者以外でも、生涯乳がんリスクの高い女性が特定されるようになっている。欧米のガイドラインは、リスク低減乳房切除術を高浸透率バリアント保持者における選択肢としているが、それ以外の高リスク女性でも選択肢となりうるか。
イギリスLondon School of Hygiene & Tropical MedicineのWeiらは、同国の30歳女性10万人からなるシミュレーションコホートと意思決定分析マルコフモデルを用い、リスク低減乳房切除術の費用対効果を乳がん検診・内科的予防(タモキシフェン/アナストロゾール)戦略と比較する、経済学的分析を行った。
結論
支払意思額(willingness to pay: WTP)閾値である、質調整生存年(QALY)あたり30,000ポンドを用いた場合、生涯乳がんリスクが34%以上の女性でリスク低減手術は費用効率的となった。QALYあたり20,000ポンドのWTP閾値では、42%であった。
年齢層別では(閾値はQALYあたり30,000ポンド)、35歳で31%、60歳では42%で費用効率的となった。
生涯乳がんリスクが35%以上の女性にリスク低減手術を提供することで、イギリスでの年間乳がん発症数は約11%、数にして6,538件減少する可能性がある。
評価
シミュレーション研究に基づき、高浸透率バリアントの保持者以外でも、生涯乳がんリスクが十分に高い女性ではリスク低減手術が合理的な選択となりうることを示した。
日本では未発症でのリスク低減手術は保険適用外であること、WTP閾値の違いなどからそのまま日本に接続はできないものの、高浸透率バリアントに縛られない制度設計を考える参考となるデータである。