GLP-1受容体作動薬のHFpEFへの有効性は
Semaglutide and Tirzepatide in Patients With Heart Failure With Preserved Ejection Fraction
背景
GLP-1受容体作動薬の初期臨床試験では、駆出率保持心不全(HFpEF)に対する有効性が示唆されていたものの明確な推奨には至っていなかった。
アメリカBrigham and Women’s HospitalのKrugerらは、2018〜2024年の同国の医療請求データを用いた5つのコホート研究に基づき、セマグルチド・チルゼパチドの有効性と安全性を評価した(セマグルチド vs. シタグリプチン58,333名、チルゼパチド vs. シタグリプチン11,257名、チルゼパチド vs. セマグルチド28,100名)。
一次アウトカムは、心不全による入院または全死因死亡の複合であった。
結論
セマグルチド(HR 0.58)およびチルゼパチド(0.42)の新規使用者では、対照薬シタグリプチンと比較して、一次アウトカムリスクが低減した。一方、チルゼパチドはセマグルチドと比較して、有意なリスク低減は認められなかった。
陰性対照・二次アウトカム・サブグループ、および感度分析は一貫した結果を示した。選抜安全性エンドポイントにおいて、大幅なリスク増は認められなかった。
評価
最大規模のリアルデータで、GLP-1受容体作動薬のHFpEFへの有効性を示唆した研究である。RCT-DUPLICATE手法で既存のRCTとの比較検証を行ったこと、シタグリプチンを「プラセボ代わり」として用いる先進的な手法を採ったこと、および直接対決試験デザインを導入したことが強みであり、研究期間の短さ(半年以内)とドロップアウトの多さ(〜40%)が弱みである。GLP-1受容体作動薬の心血管イベント抑制効果をさらに確認し、またチルゼパチドとセマグルチドの間に、この効果において大差がないとしたここでの結果は、臨床実践に直接インパクトを与える。