インフル・新型コロナ感染が休眠がん細胞の転移をトリガーする?
Respiratory viral infections awaken metastatic breast cancer cells in lungs
背景
がんによる死亡の多くは転移によって引き起こされ、しばしば長期にわたる臨床的寛解期間を経て死亡に至る。原発巣から播種されたがん細胞(disseminated cancer cells DCC)が、休眠状態に留まるか、進行に至るかを決定する因子は何か?
アメリカUniversity of Colorado Anschutz Medical CampusのChiaらは、インフルエンザやSARS-CoV-2といったウイルスの呼吸器感染が、休眠DCCからの転移を誘発し、がん死亡を増加させるという仮説を、マウスモデル、およびがんサバイバーでのSARS-CoV-2感染と乳がん転移・死亡との相関を評価することにより検証した。
結論
MMTV-Her2マウスを用いた乳がん休眠DCCモデルにインフルエンザAウイルス(IAV)を鼻腔内投与し、3〜60日後の肺を解析した。感染前には散在的なDCCクラスターのみが認められたが、感染3〜15日で転移負荷は急増し、その効果は9ヵ月後まで持続した。DCCはIAV感染により間葉系/上皮系のハイブリッド表現型へと変化し、この表現型転換が増殖促進の基盤と考えられた。
また、IL-6をノックアウトしたマウスではIAV感染による転移促進効果が失われ、この効果がIL-6依存的であることが判明した。IAV感染後期にはCD4+ T細胞の肺内集積が起こり、CD4を枯渇させるとDCC負荷が低下し、CD8活性化経路が再活性化した。このことからCD4+ T細胞は覚醒DCCの維持に寄与し、肺局所免疫を抑制していると考えられた。
これらの知見はSARS-CoV-2感染でも再現された。
さらにヒトがん患者のデータベースでは、がんサバイバーでのSARS-CoV-2陽性ががん死亡リスクを上昇させることが示された(オッズ比 1.85)。
評価
呼吸器へのウイルス感染が、IL-6依存的にDCCの表現型転換と増殖促進を引き起こし、さらにCD4+細胞がCD8+細胞の抗腫瘍活性を抑制することで腫瘍細胞の持続を可能にする、という機序が提示された。
もし感染症が休眠がん細胞を覚醒させるのであれば、ワクチン接種などの予防戦略が現実的介入として浮上する。今後の実証が期待される。


