性別適合ホルモン療法(GAHT)は心臓の電気活動に影響する
Transgender-Affirming Hormone Therapies, QT Prolongation, and Cardiac Repolarization
背景
性別適合ホルモン療法(GAHT)が心血管系に与える影響は。
フランスSorbonne UniversiteのSalemらは、トランスジェンダー成人120名(平均年齢29.7歳)を対象に、GAHTが補正QT時間(QTc)に与える影響を評価する前向コホート研究を行った。
結論
女性化GAHTを受けているトランスジェンダー女性では、GAHT開始後にQTcが平均20ミリ秒延長し、T波の振幅(TAmp)が減少した。
他方、男性化GAHTを受けているトランスジェンダー男性では、GAHT開始後にQTcが平均17ミリ秒短縮し、TAmpが増加した。
これらの変化は、GAHTを受けていないトランスジェンダーやシスジェンダーの成人に見られる男女差(性差)と同様の傾向を示していた。個々の参加者でQTcが480ミリ秒を超える、または60ミリ秒以上変化するケースはなかった。
多変量解析の結果、QTcの変化は、トランスジェンダー男性・トランスジェンダー女性でともにテストステロンレベルと関連していることが示された。また、トランスジェンダー男性ではプロラクチンレベルもQTcの変化と関連していた。
評価
少数の先行研究が示唆していた仮説を、厳密な測定に基づいて確認した初めての前向コホート研究で、GAHTが引き起こす心臓再分極の変化が、シスジェンダーの成人にみられる生理的な性差と同様のパターンをたどることを実証した。GAHTが心臓の電気生理学的特性も性別適合的な方向に変化させることを示唆している。今回の研究で観察されたQTc変化は、不整脈リスクを高める病理的なものではなく、生理学的な範囲内で、GAHTそのものが直ちに不整脈のリスクを大幅に高めるわけではないという安心材料を提供する。QTcが延長するトランス女性の場合、一部の抗うつ薬や抗精神病薬など、QTcをさらに延長させる可能性のある併用薬の処方には注意が必要である。なお、研究は小規模・短期・単一施設で、追試が必要である。