腸内細菌叢の異常が高齢者の白血病発症を媒介する?
Microbial metabolite drives ageing-related clonal haematopoiesis via ALPK1
背景
クローン性造血(clonal hematopoiesis of indeterminate potential; CHIP)は、体細胞変異を起こした血液細胞がクローン性に増殖する病態で、加齢に伴い一般的にみられる。白血病・免疫関連疾患などのリスクを高め、全原因死亡率の上昇と関連することが知られているが、その根底にあるメカニズムは知られていない。
アメリカCincinnati Children's Hospital Medical CenterのAgarwalらは、腸管上皮を損傷させたマウスモデル、およびヒトのCHIP、骨髄異形成症候群(MDS)、炎症性腸疾患(IBD)患者を対象とした研究から、加齢による腸管上皮バリア機能の障害、腸内細菌叢の変化が前白血病細胞の増殖と、どのように関連するかを検証した。
結論
放射線などによるマウス腸管上皮バリアの損傷処理は、Dnmt3a変異を有する造血幹細胞(HSC)の増殖を促した。Dnmt3a変異HSCの増殖は広域抗菌薬によって顕著に減少し、また腸管上皮バリアを損傷したマウスからの便細菌叢移植によりDnmt3a変異HSCが拡大したことから、腸内微生物叢自体がDnmt3a変異HSCの増殖を促進することが示唆された。マウスモデル、ヒト患者ではグラム陰性細菌の増加が認められており、Dnmt3a変異HSCの増殖プロセスに重要であることが示唆された。
さらにマウスモデル、ヒト患者ではグラム陰性菌が生合成するADP-ヘプトースの血中量が増加しており、ADP-ヘプトースの投与によってDnmt3a/Tet2変異細胞の増殖が引き起こされた。ADP-ヘプトースは受容体ALPK1を介して、TIFAsome形成・NF-κB活性化を誘導しており、Dnmt3a造血幹前駆細胞(HSPC)では低い濃度で十分な反応が認められた。ADP-ヘプトースは、ALPK1依存的にDnmt3a変異HSPCの遺伝子発現を変化させ、増殖を促進した。また、ADP-ヘプトースによるNF-κB活性化では、UBE2Nが重要な役割を果たすことも明らかにされた。
評価
要約すれば、腸バリア機能の弱まりがグラム陰性菌の増加を伴う腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)を引き起こし、産生されたADP-ヘプトースの血液内への流出がALPK1を介して、前白血病性細胞を増殖させるというものである。
加齢による腸の変化とCHIP変異の増加に分子レベルでの関連を確立する知見であり、特定された経路に働きかけることで、高齢者での白血病発症リスクを抑制することも可能かもしれない。

