認知機能テストはスポーツ脳震盪の評価に不適
Diagnosis of Sports-Related Concussion Using Symptom Report or Standardized Assessment of Concussion
背景
SCAT(Sports Concussion Assessment Tool)は、スポーツ脳震盪における早期の症状評価を標準化するフレームワークとして活用されているが、SCATに含まれる一部の尺度に、特にStandardized Assessment of Concussion(SAC)に含まれる即時記憶と遅延想起を評価する10単語テストについては、その妥当性が疑問視されている。
アメリカUniversity of WashingtonのHarmonらは、全米大学体育協会のディビジョンIで、脳震盪により受傷後48時間以内に急性脳震盪評価を受けたアスリート(n=92)、および競技・性別・併存疾患などでマッチングされた対照アスリート(n=92)を対象とした前向症例対照研究を実施し、SCAT5の各項目の診断制度を決定した。
結論
受信者動作特性曲線下面積(AUC)による診断有用性は、症状スコア(0.93)と症状重症度スコア(0.94)で優れており、症状スコアの2ポイントの上昇は感度86%・特異度80%・陽性適中率81%と関連した。
一方で、認知機能評価であるSAC総スコアの診断有用性は中程度であり(0.70)、脳震盪を起こしたアスリートの45%はSAC総スコアが正常範囲内であった。即時記憶(0.68)/遅延想起(0.69)の診断有用性は中程度、見当識(0.49)・集中力(0.52)は不良であった。
再検査信頼性はSAC総スコアで良好であったが、即時記憶、見当識、集中力では不良であった。
評価
SCATの構成項目のうち、脳震盪の診断に有用なのは選手が報告する症状スコアのみであり、10単語テストを含む認知機能の客観的評価の価値は限定的であった。サイドラインでの評価はともかく、臨床診断においては症状の聴取に注力すべきであろう。


