ICU患者では腸内細菌叢と全身免疫のメタシステムが障害される
Dysbiosis of a microbiota-immune metasystem in critical illness is associated with nosocomial infections
背景
重症患者では腸内細菌叢の多様性の低下(dysbiosis)がみられることが明らかになっている。腸内細菌叢のこうした異常は、ICU患者のアウトカム不良リスクと関連しているが、この関連の根底にあるメカニズムは明らかではない。
カナダUniversity of CalgaryのSchlechteらは、重症疾患における易感染性が病的細菌叢と免疫の相互作用によって引き起こされ、腸内細菌叢の異常が全身免疫・生体防御機構の障害を引き起こす、という仮説を検証するため、72時間以上の人工呼吸器管理が想定される新規ICU入室の重症成人患者51名を登録し、便細菌叢・全身細胞性免疫・炎症反応のマルチオミクス解析を実施した。
結論
ICU入室時に採取された直腸スワブの16s rRNA遺伝子シーケンシングでは、分類学的多様性・豊富さの低下、β多様性の有意な変化など、重症患者での腸内細菌叢の異常が明らかにされた。3日目・7日目のサンプルから、ICU入室後、経時的に異常が進行することも明らかにされた。また、Enterobacteriaceae科の存在量は、院内感染/死亡のリスクと関連していた。さらに、マスサイトメトリーによる細胞免疫・炎症のシステムレベル解析では、入室後の1週間で、自然免疫と獲得免疫が機能不全を呈することが明らかにされた。
こうした細菌叢の異常と免疫機能不全は、メタシステム レベルで高度に相互作用していた。Enterobacteriaceae科の濃縮は、未熟な好中球の増加と成熟好中球の減少、全身性炎症メディエータの増加と結びついており、感染リスクと関連した。
評価
抗菌薬の使用にもかかわらず、重症患者での院内感染リスクは高い。本研究は重症患者での腸内細菌叢の体系的本格調査であり、腸内細菌叢と全身免疫が動的なメタシステムとして機能しており、このメタシステムのバランスが損なわれることで自然免疫の防御が機能不全に陥り、感染リスクが高まるという、新たなメカニズムを提唱する。