新規ポリスルホン膜人工腎臓"トレライトNV"の本格販売開始について
- 東レ・メディカル株式会社
- 2011年3月8日
東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣)は、このたび、ナノテクノロジーにより抗血栓性に影響する血小板の付着抑制を自社従来品に比べて飛躍的に向上させたポリスルホン膜人工腎臓の新製品"トレライトNV"を開発し、本年4月より東レ・メディカル株式会社(本社:千葉県浦安市、社長:田中資長、東レ100%出資)による本格販売を開始します(医療機器承認番号:22200BZX00871000)。
人工腎臓を用いた透析療法(以下、人工透析という)は、血液を体外に循環させて人工腎臓内の中空糸膜を通すことで血液中の老廃物や余分な水分を取り除き血液を浄化します。これまで、人工透析中の生体適合性という観点から、血液が中空糸膜に接触することで血小板やタンパク質が膜表面に付着する生体防御反応の抑制が課題となっていました。
東レはこの課題に対し、ナノテクノロジーを駆使して新たな医療材料の表面処理技術を開発し、新規ポリスルホン膜人工腎臓"トレライトNV"に適用しました。"トレライトNV"は、人工腎臓の中空糸膜表面への血小板付着(in vitro試験)を自社従来品に比べて1/100以下に抑制し、高い抗血栓性を実現しました。血小板の付着を大きく低減することで、透析終了時まで高い透析性能を維持できることに加え、ガンマ線を用いた東レ独自のポリマー架橋滅菌処理技術を本品にも適用し、溶出物低減を図っています。さらに環境にも配慮し、"トレライトNV"のケース素材には、焼却しても水と炭酸ガスしか発生しないポリプロピレンを採用しています。
東レは1977年に、世界で初めて生体適合性に優れたPMMA(ポリメチルメタクリレート)膜を使用した合成高分子膜中空糸型人工腎臓"フィルトライザー"の生産販売を開始して以来、人工透析中の生体防御反応の低減を追求してきました。今回、新規ポリスルホン膜人工腎臓"トレライトNV"の本格展開により、今後はポリスルホン膜でもさらなる体外血液循環動態の向上等、新たな生体適合性開拓を追求し、人工腎臓事業の拡大を推進します。
東レは本年2月に策定、発表した長期経営ビジョン"AP-Growth TORAY 2020"において、医薬品・医療機器を中心とするライフサイエンス事業を「重点育成・拡大事業」と位置づけています。東レは先端材料技術を活用した高付加価値医療材料の開発推進と販売展開により、成長分野における事業育成と拡大を目指してまいります。
<用語説明>
1.人工腎臓
腎不全患者の血液体外循環療法に用いる透析療法用の透析器。患者の血液中に存在する老廃物を半透膜の拡散原理を利用して除去する一方、体内にたまった余分な水分も除きます。平膜と中空糸膜タイプがあり、現在の主流は中空糸膜約1万本が束ねられた中空糸型となっています。
2.ポリスルホン膜
高機能樹脂に広く使われている耐熱性ポリマーを基本素材として作られたポリスルホン樹脂を使用した半透膜。人工腎臓用に中空糸型に成型されたポリスルホン膜中空糸は、尿素等の小分子量物質から、β2-ミクログロブリンなどの低分子量タンパク質まで、血液中の除去対象物質の範囲が広いことから除去性能が高い他、一般的に血液適合性を有します。
3.抗血栓性
血液と接触する医療用材料には、血液の凝固(血栓)を防ぐ抗血栓性が求められています。血液は異物と接触すると生体防御反応として、血液中のタンパク質が異物の表面に付着し、それが引き金となって血栓形成反応が誘発されます。血栓形成はカテーテルや人工血管・透析膜等を詰らせることにより、性能劣化にとどまらず、血液の流れを物理的に遮断してしまうことで、治療の中断につながる場合もあります。
4.抗血栓性に影響する血小板の付着抑制の向上
"トレライトNV"では、材料表面に単分子層に近いナノレベルで親水性高分子を均一に配置させる技術を開発・適用し、複雑な形状を有する血液透析膜(中空糸膜)などの材料特性を損なうことなく、抗血栓性に影響する血小板の付着抑制を自社従来品に比べて飛躍的に向上させることに成功しました。本技術は2010年11月18日から開催された第48回日本人工臓器学会大会(仙台国際センター)において発表したもので(「新規ポリマーを用いた抗血栓性血液透析膜の開発」)、「オリジナル賞」を受賞しました。
5.ポリプロピレン・ケース
人工腎臓のケース素材は主にポリカーボネート、ハイインパクトポリスチレン、ポリスチレンなどが用いられてきました。ポリプロピレン分子は炭素原子と水素原子のみからできており、近年、環境に優しい、燃やしても水と炭酸ガスにしかならない素材として注目を浴びています。耐衝撃性や耐熱性を有し、多くの家電製品に使用されていますが、医療機器の滅菌に耐えられるように今回新たに耐ガンマ線性を持たせたポリプロピレンを採用しました。
6.生体適合性
人工材料と血液とが接触した際に起こる生体防御反応である炎症反応による、サイトカインの活性や酸化ストレスの亢進、血栓形成を誘発しない等のことです。
透析療法における生体適合性とは、血小板等の血液成分が透析膜表面に付着する生体防御反応の抑制、補体の活性化や白血球の一過性の減少を伴わないこと等をいいます。
- ニュース・プレスリリース
- http://www.toray-medical.com/news/inf_110308.html
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