脳埋め込み電極がALS患者に会話を取り戻す
A high-performance speech neuroprosthesis

カテゴリー
Top Journal
ジャーナル名
Nature
年月
August 2023
620
開始ページ
1031

背景

ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI, ブレイン・マシン・インタフェース[BMI]とも)は、閉じ込め症候群の患者とコミュニケーションを回復する手段として研究が進められているが、タイピング速度は自然な会話とはほど遠く、ブレイクスルーが必要とされてきた。
アメリカHoward Hughes Medical Institute at Stanford UniversityのWillettらによるBrainGate2研究では、口腔運動と発声能力が制限された筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に、モニター上に表示されたキューに従って、口を動かし、単一音素や単一単語の発声を試みてもらい、腹側運動前野(6v野)とブローカ野(44野)に埋め込まれた4つの微小電極アレイから、その時の神経活動を記録し、動作・音素・単語のデコード(解読)を試みた。
さらに文章のリアルタイムなニューラル・デコードを行うため、統計的な言語モデルと組み合わせて単語シーケンスを推測する、リカレントニューラルネットワーク(RNN)デコーダをトレーニングした。

結論

6v野では高い一致がみられ、単純なベイズ分類器によって口の運動は92%、音素62%、単語94%の精度でデコードが可能であった。一方、44野は、口腔運動・音素・単語についての情報はほとんど含まれていなかった(精度12%以下)。
RNNのトレーニングは、8日間で合計10,850文、1日平均140分行われた。日常生活の基本単語50語についてのパフォーマンスは誤り率9.1%、125,000語の大規模語彙モデルでは誤り率23.8%となった。患者の発話速度は毎分平均62単語であり、ハンドライティング型BCIの3倍超の速度であった。

評価

皮質に埋め込まれたBCIは基本的な単語の発語を高精度で解読し、速度についても、英語の自然な会話(毎分150-160語)に向けて大きく前進した。ブローカ野が発話に果たす役割が疑問視されている点も興味深い。
同時にNature誌に発表されたBRAVO研究では、皮質表面の電極からの信号とデジタルアバターを用いたコミュニケーションが報告されており、こちらでは解読速度は毎分78語に達した(https://doi.org/10.1038/s41586-023-06443-4)。

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(制作協力:Silex 知の文献サービス

取り上げる主なジャーナル(Top Journal)

The New England Journal of Medicine(NEJM)、The Journal of the American Medical Association(JAMA)、Lancet、Nature、Nature Medicine、Science、Science Translational Medicine、Cell