成人の胸腺摘出は不可
Health Consequences of Thymus Removal in Adults
背景
胸腺摘出はさまざまな成人外科手技で補足的・ルーチンに行われているが、十分な根拠があるとはいえない。
アメリカMassachusetts General HospitalのScaddenらは、胸腺摘出術を受けた成人患者の死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを、類似の心臓胸部手術を受けた胸腺非摘出術患者と比較するケースコントロール研究を行った(胸腺非摘出術群 n=1,420, 対照群 n=6,021)。サブグループでは、T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度も比較した。
結論
術後5年の全死因死亡率は、胸腺摘出術群が対照群より高く(8.1% vs. 2.8%, RR 2.9)、がんリスクも同様であった(2.0)。自己免疫疾患リスクに群間差はなかったが、術前に感染症・がん・自己免疫疾患を有していた患者以外の部分集団では有意差があった(1.5)。追跡期間が5年を超えると、胸腺摘出術群の全死因およびがん原因死亡率は米国の一般集団を上回った。T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度は、胸腺摘出術群はCD4陽性・CD8陽性リンパ球新生量が少なく、血中炎症性サイトカイン濃度が高かった。
評価
十分な根拠なく行われていた実践を疑問に付した歴史的研究である。臨床的な変更を示したばかりでなく、胸腺にはエフェクターT細胞モジュレータとしての新機能があるのではないか等、胸腺免疫学に数々の新仮説を生成させる結果である。