加齢した脳に対する若い血液中の抗老化因子は血小板PF4?
Platelet factors attenuate inflammation and rescue cognition in ageing
背景
動物実験において、若い血液(血漿投与や異時性parabiosis)には、加齢に伴う認知機能の衰えを逆転する効果があることが示唆されている。しかし、若い血液の中のどのような因子が、こうした効果を発揮しているのかは不明であった。
アメリカUniversity of California San FranciscoのSchroerらは、加齢した脳に対する若い血液の有益な効果をもたらす細胞・分子メカニズムを特定するため、マウスを用いた一連の研究を実施した。
結論
はじめに、若齢マウスから採取した血漿・血小板分画を、老齢マウスに24日間投与すると、生食投与の対照と比して海馬の遺伝子発現に差がみられ、免疫制御と神経系発達に関連する変化が特定された。ウェスタンブロット解析では、若齢マウスの血小板分画で血小板第4因子(PF4)が上昇しており、さらに健常人でも若年者でPF4レベルが高いことが確認された。
PF4を投与された老齢マウスは、海馬における炎症性遺伝子発現が低下しており、シナプス可塑性マーカーの発現が増加していた。ただし、PF4は血液脳関門を通過しておらず、その効果は、骨髄系・リンパ系といった末梢免疫系の細胞組成・分子シグネチャーの加齢を逆転することによると考えられた。PF4投与あるいはノックアウトによる検討では、PF4レベルの高いマウスは、新規対象への嗜好性、高い空間学習能力がみられた。
最後に、PF4のベネフィットはCXCR3によって部分的に担われており、PF4のシグナル伝達カスケードとなっていることが示唆された。
評価
姉妹誌に発表された2報の研究とともに(https://doi.org/10.1038/s43587-023-00468-0, https://doi.org/10.1038/s41467-023-39873-9)、血小板由来ケモカインPF4が、加齢による神経炎症を軽減し、シナプス可塑性を保ち、学習・記憶を維持する役割を果たしているとした。Nature Communications誌の論文では、運動による海馬の神経新生への関与も示唆されており、今後の掘り下げが注目される。