乳がんを引き起こすドライバー変異は思春期に発生する
Evolutionary histories of breast cancer and related clones
背景
近年、がん発症に関わるドライバー変異が数多く特定されている。しかし、はじめにドライバー変異を獲得した正常細胞が、どのように変異を蓄積し、最終的にがんに至るのか、という発症過程の全体像は、依然謎に包まれている。
日本Kyoto University(京都大学)のNishimuraらは、乳がん患者の正常乳管上皮および母乳育児中の健常女性の母乳から単離されたEpCAM陽性細胞からオルガノイドを確立し、正常乳房上皮細胞における変異蓄積率を検討した。さらに乳がん患者の手術標本から、がんと非がん増殖性病変をともに含む標本(n=5)を特定し、全ゲノムシーケンスにより系統樹を作成、乳がんのクローン進化を推定した。
結論
正常乳管上皮における変異蓄積の解析からは、閉経前には年19.5個、閉経後には年8.1個のペースで変異が蓄積され、出産1回あたり54.8個減少することが明らかにされた。系統樹解析では、5例いずれも1つまたは2つのクレードを持ち、それぞれが独自のドライバー変異を頻繁に獲得しながら、単一の共通の祖先から、がんや良性病変が生じることが明らかにされた。さらに5例のうち4例では、最も近い共通祖先にder(1;16)を有していた。Der(1;16)陽性標本の系統樹解析からは、der(1;16)獲得は平均10〜11歳頃と推定され、その後、10代終わりから30代前半までに共通祖先が生じた。また、der(1;16)陽性クローンは乳管に沿って、乳房内の広い領域に拡大した。The Cancer Genome Atlasのデータを用いた調査では、der(1;16)転座陽性乳がんは乳がんの19.5%を占め、大半がLuminal Aタイプに分類された。der(1;16)陽性腫瘍は長い全生存期間と関連した。
評価
骨髄増殖性疾患では、ドライバー変異が発がんの遙か前に起こることが報告されているが、乳がんに至る最初のドライバー変異が、思春期前後に生じていることを初めて明らかにした。著者らは、「休眠」概念の重要性を指摘しており、乳がんに留まらず、発がん過程一般の解明に向けた重要な貢献である。