年老いた細胞は、遺伝子を「ていねいに読む」ことができない
Ageing-associated changes in transcriptional elongation influence longevity
背景
加齢・老化はタンパク質合成に関わる転写やRNAスプライシングなどのプロセスを障害し、結果としてタンパク質の品質と濃度に影響を与え、身体の生理的恒常性を損なう。しかし、転写プロセス自体が加齢からどのように影響を受け、また与えるかは不明である。
ドイツUniversity of CologneのDebèsらは、トランスクリプトーム解析を用いて、加齢が転写動態にどのように影響し、その変化がmRNA合成に影響を及ぼすかを、線虫・ショウジョウバエ・マウス・ラット・ヒトで分析した。
結論
転写速度(RNAポリメラーゼII [Pol II] 伸長速度)は、5種の生物すべてで加齢とともに増加した。Pol II伸長速度を低下させる点変異を持つ線虫・ショウジョウバエでは寿命が延長することも示され、この関連が因果的であることを示唆した。さらに、伸長速度の加速によってスプライシングのプロセスにも変化が生じ、スプライスされていない転写産物の減少、環状RNA(circRNA)形成の増加がみられた。また、食事制限・インスリン-IGFシグナル伝達阻害は、Pol II速度を低下させた。
評価
老化は転写を「劣化」させる、というのは一般見解だったが、「速度は加速されるがエラーが増える」という劣化の実態を初めて分子レベルで明らかにした。この変化が逆転可能であることも示唆しており、「若返り」介入の新しい標的となりえる。