なぜ冬眠中のクマには血栓ができないのか
Immobility-associated thromboprotection is conserved across mammalian species from bear to human
背景
寝たきり・不動の状態に陥る(immobility)と血栓のリスクが高まることはよく知られている。では、人間と同じ哺乳類で長期間冬眠を行うクマは、なぜ血栓症を発症しないのだろうか?
ドイツLMU MunichのThienelらは、スウェーデンの野生のヒグマ個体群13頭から、活動期と冬眠期の血液サンプルを採取し、両者を比較した。そこで得られた知見を確認するため、脊髄損傷患者・健常者の血液サンプルなどでも比較を行った。
結論
質量分析プロテオミクスによれば、冬眠期のクマの血液中ではさまざまなタンパク質の量に変化が生じていた。このうち最も大きな差異はヒートショックプロテイン47(HSP47)であり、50分の1まで減少していた。HSP47のダウンレギュレーション・欠損は、免疫細胞の活性化と好中球細胞外トラップの形成を抑制し、血栓予防に寄与した。同様のHSP47の減少パターンは、慢性的脊髄損傷患者、実験的な長期不動者、ブタなどでも確認された。
評価
脊髄損傷患者では初期に血栓リスクが高まり、その後は低下していくことが明らかになっている。この研究は、脊髄損傷患者でのこの抗凝固状態が、冬眠中のクマと同様に、HSP47レベルの低下によってもたらされている可能性を示唆した。血栓予防戦略の新たな標的として要注目であると同時に、HSP47の発現低下がどのようにもたらされるのかも重要な問題となる。


