南インド農村部では10人に1人がツツガムシ病に感染している
Incidence of Scrub Typhus in Rural South India

カテゴリー
Top Journal
ジャーナル名
The New England Journal of Medicine
年月
March 2025
392
開始ページ
1089

背景

ツツガムシ病は、特にアジアの途上国で重要な感染症だが、疫学実態が明らかでない。
イギリスLondon School of Hygiene and Tropical MedicineのSchmidtらは、ツツガムシ病が蔓延しているインドのタミル・ナードゥ州の37村において、7,619世帯32,279名の急性発熱性疾患を系統的に評価する人口ベースのコホート研究を行った。参加者を2年間6〜8週毎に訪問し、訪問後に発熱のあった参加者から静脈血検体を入手した。サブコホートにおいて採血を行い、Orientia tsutsugamushi(ツツガムシ病リケッチア症)の感染の発生率を推定した。

結論

54,588人年の追跡期間中、6,175件の発熱があった。72.5%から血液検体が得られ、このうち7.3%が、ツツガムシ病の臨床症例の定義を満たした。臨床的感染の発生率は1,000人年あたり6.0名で、臨床症例の21.6%が入院し(発生率1,000人年あたり1.3件)、8.8%が臓器不全や有害な妊娠転帰などに至る重症であった(発生率1,000人年あたり0.5名)。
サブコホートの2,128名では、症状の有無とは独立したセロコンバージョンの発生率は1,000人年あたり81.2件であった。臨床的感染の発生率は、高年齢が低年齢より高く、女性が男性よりも高かったが、年齢を補正した重症感染の発生率は、男女同等であった。研究開始時に評価した5,602名では、ELISAで検出されたIgGの血清有病率が42.8%であった。1年目または2年目の開始時における血清IgG陽性は、その後1年間の臨床的病態を予防しなかったが、血清IgG陰性よりも、疾患の重症度が低かった。

評価

リケッチアOrientia tsutsugamushiが起因し、感染したダニの幼虫、ツツガムシに噛まれることで人に感染する。発熱・頭痛・体の痛み・発疹等の症状が感染後10日程度で発現し、無治療の場合ARDS・ショック・髄膜炎・腎不全も発現しうる。この研究は、イギリスLSHTMによる数少ない徹底的大規模疫学調査で、この疾患に関する基礎データを提示したが、COVID-19パンデミック期と重なったため、留保が必要な結果となった。この地域での症例致死率は1.5%であった、という。

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(制作協力:Silex 知の文献サービス

取り上げる主なジャーナル(Top Journal)

The New England Journal of Medicine(NEJM)、The Journal of the American Medical Association(JAMA)、Lancet、Nature、Nature Medicine、Science、Science Translational Medicine、Cell