南インド農村部では10人に1人がツツガムシ病に感染している
Incidence of Scrub Typhus in Rural South India
背景
ツツガムシ病は、特にアジアの途上国で重要な感染症だが、疫学実態が明らかでない。
イギリスLondon School of Hygiene and Tropical MedicineのSchmidtらは、ツツガムシ病が蔓延しているインドのタミル・ナードゥ州の37村において、7,619世帯32,279名の急性発熱性疾患を系統的に評価する人口ベースのコホート研究を行った。参加者を2年間6〜8週毎に訪問し、訪問後に発熱のあった参加者から静脈血検体を入手した。サブコホートにおいて採血を行い、Orientia tsutsugamushi(ツツガムシ病リケッチア症)の感染の発生率を推定した。
結論
54,588人年の追跡期間中、6,175件の発熱があった。72.5%から血液検体が得られ、このうち7.3%が、ツツガムシ病の臨床症例の定義を満たした。臨床的感染の発生率は1,000人年あたり6.0名で、臨床症例の21.6%が入院し(発生率1,000人年あたり1.3件)、8.8%が臓器不全や有害な妊娠転帰などに至る重症であった(発生率1,000人年あたり0.5名)。
サブコホートの2,128名では、症状の有無とは独立したセロコンバージョンの発生率は1,000人年あたり81.2件であった。臨床的感染の発生率は、高年齢が低年齢より高く、女性が男性よりも高かったが、年齢を補正した重症感染の発生率は、男女同等であった。研究開始時に評価した5,602名では、ELISAで検出されたIgGの血清有病率が42.8%であった。1年目または2年目の開始時における血清IgG陽性は、その後1年間の臨床的病態を予防しなかったが、血清IgG陰性よりも、疾患の重症度が低かった。
評価
リケッチアOrientia tsutsugamushiが起因し、感染したダニの幼虫、ツツガムシに噛まれることで人に感染する。発熱・頭痛・体の痛み・発疹等の症状が感染後10日程度で発現し、無治療の場合ARDS・ショック・髄膜炎・腎不全も発現しうる。この研究は、イギリスLSHTMによる数少ない徹底的大規模疫学調査で、この疾患に関する基礎データを提示したが、COVID-19パンデミック期と重なったため、留保が必要な結果となった。この地域での症例致死率は1.5%であった、という。