がん患者がCOVID-19ワクチン接種を受けると免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まる
SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumours to immune checkpoint blockade
背景
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)への腫瘍の感受性を高めるため、個別化mRNAワクチンが開発されているが、製造が複雑で時間を要するという制限がある。一方、mRNAベースの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンは強いサイトカイン誘導を引き起こし、接種後に腫瘍が自然退縮したという散発的報告もあるが、ICIアウトカムへの影響は未解明である。
アメリカUniversity of Texas MD Anderson Cancer CenterのGrippinらは、COVID-19 mRNAワクチンがICIに対する腫瘍の感受性を高める、という仮説を検証するため、mRNAワクチン接種を受けたがん患者コホートでのアウトカム比較、マウスモデルでの機序の探索、ヒトでの分子的・細胞学的確認を行った。
結論
ICI開始の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した肺がん患者では、未接種者と比して全生存期間が有意に延長し(調整ハザード比 0.51)、別コホートの進行黒色腫患者においても同様の結果が示された(調整ハザード比 0.37)。対して、化学療法のみを受けた患者でのmRNAワクチン接種、あるいはICI治療を受けた患者での肺炎・インフルエンザに対する非mRNAワクチン接種はベネフィットを示さなかった。
マウスモデルにおいて、mRNA脂質ナノ粒子(LNP)とPD-L1阻害は、単独では有意な生存ベネフィットを示さなかったが、併用においては腫瘍増殖を強く阻害した。IFNAR1抗体によってI型インターフェロン・シグナリングを阻害すると抗腫瘍反応も完全に阻害された。さらにmRNAがコードするタンパク質を改変しても抗腫瘍活性は変化せず、自然免疫によるmRNA自体の感知が抗腫瘍活性の主因であると示唆された。
健康なヒト被験者へのCOVID-19 mRNAワクチン(mRNA-1273)接種を行うと、血漿中のIFN-αが速やかに上昇した。mRNA含有量が少ないBNT162b2ではI型IFNと自然免疫活性化の増加量は小さかった。生検前にmRNAワクチンを受けていた患者では、腫瘍のPD-L1 TPSが上昇していた。さらに、ベースラインでTPS <1%の肺がん患者でも、COVID-19 mRNAワクチンを受けた患者ではTPS >1%の患者と同様の生存期間を示した。
評価
ICI治療の前後にCOVID-19 mRNAワクチン接種が行われていた場合、生存率が有意に改善した。さらにその効果は抗原ではなく、I型IFNなどによる全身的な自然免疫活性化であること、ICIの効果が期待しにくい所謂cold tumorsの患者でも腫瘍の感受性が高まることも示唆された。
接種のタイミングをICI開始に合わせるという介入は実施のハードルが低く、RCTによる検証が期待される。

