受診理由にCHFがあると肺塞栓の検査が少なくなる:アンカリング・バイアスの罠
Evidence for Anchoring Bias During Physician Decision-Making

カテゴリー
救急医療
ジャーナル名
JAMA Internal Medicine
年月
June 2023
183
開始ページ
818

背景

人間の思考・行動はさまざまな先入観による認知バイアスに取り巻かれており、このことが医療者の意思決定プロセスにも影響を与えていると考えられる。
アメリカGreater Los Angeles Healthcare SystemのLyらは、2011〜2018年の退役軍人省のデータを用いた横断研究を行い、呼吸困難感を訴えて救急外来を受診したうっ血性心不全(CHF)患者(n=108,019)において、診察前トリアージで受診理由欄にCHFの記載があった場合、肺塞栓(PE)の検査が行われる確率が低下するかどうかを検討した。

結論

4.1%で受診理由欄にCHFについての記載があった。PE検査が行われたのは全体の13.2%で(平均76分以内)、71.4%でBNP検査が行われた。救急外来で急性PEと診断されたのは0.23%、最終的に急性PEと診断されたのは1.1%であった。CHFの記載はPE検査の減少と関連しており(4.6パーセンテージポイント[pp])、PE検査までの時間も延長(15.5分)、BNP検査も増加した(6.9 pp)。CHFの記載は、救急でのPE診断の確率を0.15 pp低下させたが、最終的なPE診断との間に有意な関連はみられなかった(0.06 pp)。

評価

受診理由欄にCHFの記述がある患者では、最終的なPE診断率に差はないにもかかわらず、PE検査の実施が有意に減少していた。受診理由欄の記述がアンカーとして機能し、これに依存した意思決定が行われてしまった可能性がある(アンカリング・バイアス)。本論文の著者は医療にひそむバイアスを追求しており、「PE診断を行った直後の医師は、後続の患者でもPEを疑いやすい(利用可能性バイアス)」ことも明らかにしている(https://www.medicalonline.jp/review/detail?id=2285)。

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(制作協力:Silex 知の文献サービス

取り上げる主なジャーナル(救急医療)

The Journal of the American Medical Association(JAMA)、Lancet、Critical Care Medicine (Crit Care Med)、The New England Journal of Medicine (NEJM)