脳腫瘍は脳神経回路をリモデリングする
Glioblastoma remodelling of human neural circuits decreases survival
背景
悪性脳腫瘍は脳の複雑な神経ネットワークの中に存在しており、先行研究は、神経細胞が腫瘍の増殖を促し、腫瘍が神経細胞の過興奮を引き起こす、という正のフィードバックループを持つことを示している。
アメリカUniversity of California、San FranciscoのKrishnaらは、外側前頭前皮質に皮質投射性の腫瘍を有する成人膠芽腫患者のコホートで、皮質脳波電極を配置し、タスクに対する覚醒下の神経反応を測定した。また、腫瘍と神経ネットワークの接続が生存アウトカム・認知機能へ与える影響を調査した。加えて、神経回路と高い機能的接続を持つ(HFC)腫瘍領域と、持たない(LFC)腫瘍領域からサンプリングし、HFC領域で発現する神経回路に関連する遺伝子を特定し、治療標的としてのポテンシャルを探った。
結論
覚醒下の神経反応の測定では、腫瘍浸潤皮質の全領域でタスクに関連した神経活動が、皮質投射性腫瘍で発話に関連する神経反応が維持されていることが認められ、このことから、腫瘍による言語回路の機能リモデリングと、言語回路への接続が起こることが示唆された。HFC腫瘍領域と、LFC腫瘍領域に対して行われたRNAシーケンシングでは、HFC領域で、TSP-1をコードするトロンボスポンジ-1(THBS1)などがアップレギュレートしていることを確認した。さらに膠芽腫患者での検証では、HFC領域のある患者では生存期間の中央値が71週、HFCのない患者では123週、言語タスクについてもHFCボクセル数がパフォーマンスと逆相関することを示した。最後に、TSP-1が膠芽腫増殖の調整因子である可能性を踏まえ、THBS1受容体阻害薬ガバペンチンによるTSP-1標的化が試みられ、HFC患者由来異種移植片マウスでの膠芽腫増殖が有意に抑制された。
評価
脳のネットワークは単に腫瘍によってその働きを奪われているのではなく、腫瘍による言語回路のリモデリングによって機能的接続が維持されていることを実証した。HFC領域で高発現する遺伝子を特定し、さらに抗てんかん薬ガバペンチンを転用したTSP-1標的化が可能であったことは、この研究アプローチをとりわけ有望な発端研究にしている。