患者のイラだちは救急医の感情にネガティブな影響を与えるが、臨床判断には影響せず
When emergency physicians meet patients displaying irritable behaviours: a randomised vignette-based experiment investigating physicians' emotions and clinical reasoning
背景
救急医療の現場では、患者・家族による医療従事者への暴言や威圧的言動は例外事象ではない。患者・家族の非礼な言動が医師の診断・治療、チームのパフォーマンスなどに与える影響を評価した研究はいくつか存在しパフォーマンスへの悪影響が示唆されているが(https://doi.org/10.1542/peds.2016-2305, https://doi.org/10.1016/j.jcjq.2019.02.002)、救急の医師における影響は?
アメリカUniversity of Massachusetts AmherstのIsbellらは、経験を積んだ救急医(n=134)を対象としたインタラクティブなコンピュータシミュレーション研究を行い、4人の患者の臨床場面シナリオにおいて行動および精神疾患既往歴を変化させた時、易怒的な言動(irritability)が医師の感情・臨床評価・意思決定などに与える影響を評価した。
結論
易怒的言動を示す患者の診療時には、穏やかな行動の患者と比較して怒り・不安・疲労感が強く、共感・幸福・積極的関与の低下が報告された。
また医師は、易怒的行動を示す患者を病歴提供能力が低く、痛みを誇張する傾向が高く、協力性、関与性、好感度が低く、治療への順守性、職場復帰率が低いと評価する傾向があった。
医師の感情状態(Stress from Uncertainty Scale)は、患者の易怒的言動から受ける影響を増幅させた。SUSスコアが高い医師は怒り・不安・疲労感が増大し、患者を病歴提供能力が低く、治療への順守性が低く、好感度が低いと評価した。
これらの影響は患者の精神疾患歴には左右されなかった。
また易怒的言動による医師の臨床判断・行動・診断への影響は認められなかった。
評価
臨床ヴィネットを用いたこの研究では、患者の易怒的言動は、医師の感情・積極的関与、患者に対する評価に影響を与えた一方で、臨床的意思決定・行動・診断などには有意な影響を及ぼさなかった。
経験ある救急医は患者の態度によって臨床的選択を左右されない、という結果は心強いが、ネガティブな感情の増大、患者との関係の質の低下は明確に示されており、医師のバーンアウトや長期的なケアの質の低下につながることが懸念される。


