高地での血糖値改善の謎を解明:赤血球は「巨大な糖の吸収源」
Red blood cells serve as a primary glucose sink to improve glucose tolerance at altitude

カテゴリー
生活習慣病
ジャーナル名
Cell Metabolism
年月
February 2026
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背景

高地居住者は糖尿病リスクが低く、血糖値が安定していることが長年知られていたが、その生理学的メカニズムは不明で、低酸素状態におけるインスリン感受性の向上などが想定されてきた。
アメリカUniversity of CaliforniaのJainらは、PET/CTイメージングによる体内糖分布の可視化、赤血球の輸血・放血実験、分子レベルでの酵素(GAPDH)と膜タンパク質(band 3)の相互作用解析およびヒトの遺伝疫学データに基づき、高地環境下で激増する赤血球そのものが全身のグルコースを吸収する主要なシンク(貯蔵庫)として機能しているという新仮説を提唱した。

結論

低酸素環境(酸素濃度8%)のマウス実験において、血糖値の低下は赤血球数の増加と密接に連動しており、放血で赤血球を減らすと血糖値が上昇し、輸血で増やすと低下することが確認された。慢性的低酸素下では、新しく作られた赤血球において糖輸送体GLUT1のタンパク質量が約2倍増加し、個々の赤血球による糖の取り込み能力が約3倍に向上する。取り込まれた糖は、低酸素適応に不可欠な物質2,3-DPGの産生に費やされ、結果として全身の血糖値が有意に改善する。さらに、低酸素模倣薬HypoxyStatの投与により、1型および2型糖尿病モデルマウスの血糖値も改善した。

評価

赤血球を単なる「酸素の運び屋」ではなく「血糖調節の鍵」と再定義する独創的な仮説である。実験はマウスレベルだが、著者らは、ヒマラヤのシェルパ族が他の中南米高地民族と異なり血糖値が低くない理由を、彼らが低酸素下でも赤血球を増やさない遺伝的適応(HIF2変異)を持つためであるとし、またヒト赤血球のex vivo実験で同じ現象がみられる、ともしている。
この仮説は、糖尿病治療において、赤血球に作動する新しい治療薬の開発という、従来とは全く異なるアプローチも示唆する。

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(制作協力:Silex 知の文献サービス

取り上げる主なジャーナル(生活習慣病)

Journal of the American Medical Association (JAMA)、The New England Journal of Medicine (NEJM)、Lancet、Diabetologia、Diabetes Care (Diabetes Care)