AI聴診器は現場で「使える」のか:TRICORDER試験
Triple cardiovascular disease detection with an artificial intelligence-enabled stethoscope (TRICORDER) in the UK: a cluster-randomised controlled implementation trial
背景
AI搭載聴診器が開発されているが、実用になるのか。
イギリスImperial College LondonのPetersら(TRICORDER)は、イギリスのプライマリケア施設205施設(約155万名)を対象に、POC-AI聴診器の実装が心不全等の新規診断率に与える影響を評価するクラスターRCTを実施した(対照: 非使用)。
一次アウトカムは、1,000患者年あたり(発生率比[IRR])で表された、新たにコード化された心不全診断(すべてのサブタイプ)の発生率であった。
結論
AI聴診器の導入は、対照群と比較して12ヵ月後の心不全新規診断率を統計的に有意に増加させなかった(IRR 0.94)。地域ベースの診断と病院ベースの診断にも差はなかった。
実際にデバイスが使用された症例に限定した解析(プロトコル準拠解析)では、心不全で2.33倍、心房細動で3.45倍、弁膜症で1.92倍と、いずれも有意な診断率の向上が認められた。
評価
AI聴診器のデバイスとしての精度を確認した既存研究を踏まえ、それが実装レベルで「使える」かどうかを大規模検証した初のRCTである。結果は、AI聴診器の「アルゴリズムとしての精度」と「臨床現場での実効性」の間の乖離を浮き彫りにしている。著者らは、導入後12ヵ月で40%の施設が使用を停止した事を指摘し、臨床現場でのワークフローへの統合不全が障壁であると結論している。実装での主な問題点は、電子カルテとの連携不足や追加的作業負荷であった。他方、適切に使用されれば診断ギャップを埋める高い潜在能力(心不全検出で2倍以上の効果)があることも裏付けられており、実装においては、診療現場の現実(リソース制約やワークフロー)に即したシステム設計が不可欠となる。


