投資ファンドによる病院買収は救急・ICUの死亡率を悪化させる
Hospital Staffing and Patient Outcomes After Private Equity Acquisition
背景
プライベート・エクイティ(PE)と呼ばれる未公開株式を対象とした投資ファンド(PEファンド)による、中小クリニック・介護施設の買収は、アメリカを中心に一般的に行われている。PEファンドによる買収は、後継者のいない小規模クリニックをネットワーク化したり、IT導入などで業務プロセスを効率化するなどのポジティブな効果をもつ場合もあるが、しばしば事業再編・コスト削減によって短期的利益を生み出すことを目的としており、医療の質を引き下げることへの懸念が強く存在する(https://doi.org/10.1001/jama.2023.23147)。
アメリカUniversity of PittsburghのKannanらは、メディケア(パートA・パートB)の請求、およびMedicare Cost Reportのデータを用いて、同国49施設のPE病院の救急外来受診(n=1,007,529)・集中治療室入室(n=121,080)を、対照病院293施設の救急受診(n=6,179,854)・ICU入室(n=760,377)とマッチングし、差分の差分法によって救急・ICU人件費、患者死亡率、滞在日数、転院率を比較した。
結論
対照病院と比して、PE病院では買収後、救急部門の人件費が18.2%(入院日数あたり)、ICU部門の人件費が15.9%削減された。これは病院全体の正規雇用職員の11.6%削減、人件費の16.6%と並行して生じた。
PE病院の救急を受診した受給者では、受診1万件あたり7.0件の死亡増加が引き起こされた(ベースラインから13.4%の増加)。ICU死亡率には差は認められなかった。また、PE病院の救急・ICU患者では買収後、他の急性期病院への転院がそれぞれ4.2%、10.6%増加した。ICU滞在日数(平均)は0.2日短縮された。
評価
PE買収後の病院では、救急・ICUの人件費が大きく削減され、おそらくこれに伴う死亡・転院の増加、およびICU滞在日数の短縮も認められた。
日本では医療法人の非営利性原則や、保険制度による価格自由度の低さが制約となり、アメリカのように「医療の金融化」(https://doi.org/10.1056/NEJMms2308188)が生じる余地は小さいかもしれないが、医療分野に短期的な収益最適化のインセンティブが入り込むことの帰結は認識しておく価値がある。


