ワイヤレス脳-脊髄デバイスにより脊髄損傷患者がふたたび歩行可能に
Walking naturally after spinal cord injury using a brain-spine interface

カテゴリー
Top Journal
ジャーナル名
Nature
年月
June 2023
618
開始ページ
126

背景

脊髄損傷は、脳と歩行を生み出す脊髄領域との神経学的接続を断ち、障害を引き起こす。近年の研究では、脊髄の硬膜外電気刺激法を用いた下肢の運動プール活性化により、脊髄損傷麻痺のある患者で歩行を回復しうることが明らかにされてきた。
スイスEcole Polytechnique Fédérale de Lausanne(EPFL)のLorachらは、脳内のインプラントからリアルタイムで皮質電気信号を記録し、リュック型の処理ユニットで運動意図を予測、腰仙骨脊髄のパドルリードから刺激を行う、脳脊髄インターフェイス(Brain Spinal Interface)を開発した。Stimulation Movement Overground(STIMO)-BSI試験では、10年前の自転車事故によりC5/C6脊髄損傷を負い、その後、硬膜外電気刺激によるリハビリ支援の臨床試験に参加し、歩行器補助のもとで歩行が可能となった38歳の男性にBSIを脳神経外科的に移植した。

結論

移植後の最初のセッションで、BSIは迅速かつ正確にキャリブレーションされた。BSIは男性の筋活動を継続的に制御し、BSIなしの場合と比して、筋活動は5倍に増加した。BSIは、松葉杖による歩行も堅牢に制御した。さらにBSIの支援は、これまで困難だった急なスロープや階段など、平面以外の歩行も可能にした。以前の臨床試験で、男性の神経学的回復はプラトーに達していたが、BSIのもとでの40回のリハビリセッション後には、股関節屈筋制御・屈曲運動の改善、感覚スコア・運動スコアの向上が認められた。彼は、BSIをオフにした状態でも、松葉杖を用いた歩行能力を回復している。

評価

ニュースなどでも広く取り上げられた最新研究で、脳と脊髄をデジタルにブリッジする新デバイスにより、脊損患者の自然な立位・歩行のコントロールが回復しうることを実証した。現在、製品化が進行中であり、脊髄損傷の治療に新時代をもたらすだろう。

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(制作協力:Silex 知の文献サービス

取り上げる主なジャーナル(Top Journal)

The New England Journal of Medicine(NEJM)、The Journal of the American Medical Association(JAMA)、Lancet、Nature、Nature Medicine、Science、Science Translational Medicine、Cell