ボルバキア感染雄蚊の放出によるデング熱抑制:シンガポールでの大規模クラスターRCT
Dengue Suppression by Male Wolbachia-Infected Mosquitoes
背景
ボルバキア株wAlbBに感染した雄のAedes aegypti(ネッタイシマカ)と野生型の雌が交尾すると、細胞質不適合により卵が孵化しない。
シンガポールProject Wolbachia-Singapore ConsortiumのSimらは、この原理を利用し、シンガポール都市部における15クラスター(介入8[393,236名]、対照7[331,192名])を対象として、ボルバキア感染雄蚊を継続的に放出することで野生型個体群を抑制し、デングウイルス感染リスクを低減できるかを検証した。
一次エンドポイントは、全血清型による、全重症度の症候性デングウイルス感染症の診断であった。
結論
ボルバキア感染雄蚊の放出により、介入地域の蚊の密度は平均0.18から0.041へと減少した。ITT解析の結果、介入群のデング熱陽性率は6%で、対照群の21%と比較して有意に低かった。これにより、介入によるデング熱感染の防御効果は71〜72%(オッズ比 0.28〜0.29)に達することが確認された。
評価
先行小規模研究を集大成する大規模研究により、高層住宅が密集する都市環境において、不妊化蚊の放出がデング熱リスクを7割以上低減することを示した。著者らは、この効果が年齢や性別を問わず一貫しており、デングウイルス以外の他の蚊媒介性疾患(ジカ熱、チクングニア熱等)にも有効である可能性を強調している。
この技術は、従来の防除策やワクチンを補完・代替する強力な手段として期待される一方、効果を維持するためには継続的な放出、厳格な雌雄選別、放射線照射などの高い運用コストが必要となる。また、住民の77%がこの取り組みを支持しているというシンガポールでの政策受容性の高さも、社会実装を可能とする重要要因である。シンガポールの都市構造に合わせたドローン等による蚊の散布技術が設計・運用されつつある。


