OTOF遺伝子変異による先天性難聴へのDB-OTO遺伝子治療が成功:CHORD試験
DB-OTO Gene Therapy for Inherited Deafness
背景
オトフェリン(OTOF)遺伝子欠損による先天性難聴に対する治療薬はなく、通常人工内耳が用いられる。アメリカRegeneron PharmaceuticalsのWhittonら(CHORD)は、重度のOTOF難聴小児12名を対象として、デュアルアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子治療(DB-OTO: ヒトOTOFのcDNAを二重AAVベクターに搭載して、外科的に内耳内注入する)の有効性・安全性を評価した。
一次有効性エンドポイントは、24週目における純音聴力検査(PTA)の平均閾値が70 dB HL以下であることとした。安全性評価には、有害事象・臨床検査結果・前庭検査が含まれた。
結論
一次エンドポイントおよび聴性脳幹反応90 dB nHL以下(二次エンドポイント)を12名中9名(75%)が達成した。
12名中3名は平均正常聴力域に回復し、6名は補聴器なしで小声の発話を聞き取ることが可能になった。治療中または治療後に合計67件の有害事象が発現または悪化したが、いずれも本研究への参加中止には至らなかった。
評価
遺伝性難聴に対する遺伝子治療としては、TMC1遺伝子変異に対するものが平行して進んでいるが、本研究は、単一タンパク質欠損による先天性難聴に対する遺伝子治療の有効性・安全性を示すブレークスルー研究となった。さらに、感覚器の機能回復において、細胞構造が無傷の場合に遺伝子導入療法が機能を正常化しうるということを示した点でも、画期的である。
治療効果は年齢が16歳の参加者にもみられており、早期治療が必須でないという知見も重要である。一方、サンプルサイズが小さいこと、試験中に治験デザインが変更されたこと、長期追跡データが不足していることが限界である。現在、DB-OTO治療後5年の転帰を評価する研究が行われている。


