70年ぶり、欧州でジフテリアがアウトブレーク:移民一時収容施設
Corynebacterium diphtheriae Outbreak in Migrant Populations in Europe
背景
2022年夏以降、欧州の移民一時収容施設でジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)感染症例が急増した。皮膚感染が主で、一部で呼吸器感染や死亡例も報告された。
この集団発生の臨床・疫学・微生物学的特徴を評価する目的で設立された2022 European Diphtheria Consortiumは、2022年1月〜11月における欧州10ヵ国毒素産生性ジフテリア菌感染症例の分析・評価を報告している。患者面接で出身国・入国経路データを収集し、細菌分離株で全ゲノムシーケンシングと抗菌薬感受性試験を実施し、分離株とその抗菌薬耐性遺伝子の系統発生的関係を評価した。
結論
研究期間中に362名から363株の毒素産生性ジフテリア菌が同定され、346名の臨床データが得られた。内訳は皮膚ジフテリアが77.5%、呼吸器ジフテリアが15.3%で、6%に両症状があった。4つの主要な遺伝子クラスターが確認され、集団発生が多クローン性であることを示した。ermX遺伝子(エリスロマイシン耐性)とpbp2m・blaOXA-2遺伝子(βラクタム耐性)が一部の分離株で検出された。耐性株はそれぞれの遺伝子に応じた薬剤耐性を示し、共通祖先は2017〜20年に存在したと推定された。
評価
患者の約98%は男性で、96%は最近の移住者、年齢中央値は18歳、症例のほぼ半数が16〜20歳であった。出身国が判明している患者の83.5%はアフガニスタンまたはシリア出身で、大多数は西バルカン半島を経由して移住してきた。pbp2m・ermX遺伝子の汎在は大きな懸念だが、ワクチン接種のため一般人口への波及は未だみられていない。移民起源の感染症では他に結核・肝炎があり、欧州の公衆衛生は、大きなチャレンジを受けている。